擁壁の透水マットは背面の水を排出するための材料
透水マットは、擁壁背面に浸入した雨水や地下水などを集め、水抜き穴へ排出するために設置する排水材料です。
一般的には合成樹脂などで作られた排水層とフィルター層から構成され、擁壁の背面に貼り付けて使用します。
従来は、擁壁背面に砂利や砕石を施工して透水層を形成する方法が一般的でした。
透水マットは、この砂利や砕石による透水層と同じように、擁壁背面の排水性を確保することを目的として使用されます。
重要なのは、透水マットそのものが水を擁壁外へ排出するわけではないことです。
透水マットで集めた水は、最終的に水抜き穴などから擁壁前面へ排出する必要があります。
擁壁背面の排水が必要な理由
擁壁の安定を考えるとき、背面の水は非常に重要です。
擁壁背面へ雨水や地下水が浸入して排水されない場合、背面土の含水量が増加します。
さらに水がたまると、擁壁に水圧が作用する可能性があります。
擁壁には通常、
- 土圧
- 自重
- 上載荷重
- 地震時荷重
などが作用します。
背面の排水が十分でなければ、これらに加えて水圧の影響も考えなければなりません。
『盛土等防災マニュアル』でも、鉄筋コンクリート造等の擁壁について、擁壁背面の排水をよくするために透水層、水抜き穴等を適切な位置に設けることが示されています。
つまり、透水マットや裏込め砕石、水抜き穴は、擁壁背面に水をためないための重要な設備です。
透水マットと水抜き穴はセットで考える
透水マットを設置するときは、水抜き穴との関係を理解しておく必要があります。
基本的な排水の流れは次のとおりです。
- 雨水などが擁壁背面の土へ浸透する
- 浸透水が透水マットへ流入する
- 透水マット内部を水が流下する
- 水抜き穴付近へ水を集める
- 水抜き穴から擁壁前面へ排出する
したがって、透水マットを設置しても、水抜き穴が閉塞していれば十分な排水効果は期待できません。
反対に、水抜き穴だけを設けても、その周囲へ水が集まらなければ効率よく排水できません。
透水層で水を集め、水抜き穴で擁壁外へ排出するという役割分担で考えると分かりやすいでしょう。
擁壁の水抜き穴には基準がある
宅地造成及び特定盛土等規制法施行令では、同施行令第8条第1項第1号の規定によって設置する擁壁について、水抜き穴と透水層に関する基準が定められています。
具体的には、
- 壁面3m²以内ごとに少なくとも1個
- 内径7.5cm以上
- 耐水性の材料を使用する
- 水抜き穴周辺その他必要な場所に透水層を設ける
ことが規定されています。
ここで注意したいのは、「すべての擁壁には必ず3m²に1個」という意味ではないことです。
施行令第12条の規定は、同施行令第8条第1項第1号によって設置される擁壁を対象としています。
実際の設計では、適用される法令や条例、自治体の技術基準を確認してください。
透水マットは裏込め砕石の代わりに使用できる場合がある
擁壁背面の透水層には、砂利や砕石を使用する方法と透水マットを使用する方法があります。
| 項目 | 透水マット | 砂利・砕石による透水層 |
|---|---|---|
| 主な役割 | 背面水の集水・排水 | 背面水の集水・排水 |
| 材料 | 合成樹脂系などのマット | 砂利、砕石など |
| 施工方法 | 擁壁背面へ貼り付け | 擁壁背面へ所定厚さで施工 |
| 必要スペース | 比較的小さい | 一定の施工幅が必要 |
| 施工管理 | 継目、固定、損傷などに注意 | 厚さ、材料、締固めなどに注意 |
透水マットは薄いため、砂利や砕石による透水層と比べて施工スペースを小さくできます。
また、材料の運搬量を減らせるなど、施工性の面でもメリットがあります。
ただし、透水マットであれば無条件に裏込め砕石を省略できるわけではありません。
擁壁の高さや形式、使用する製品、自治体の基準などによって使用条件が異なります。
透水マットを使用できる擁壁には条件がある
「擁壁用透水マット技術マニュアル」を準用する自治体の技術基準では、透水マットを使用できる擁壁について条件を設けている例があります。
代表的な条件として、
- 鉄筋コンクリート造擁壁
- 無筋コンクリート造擁壁
- 地上高さ5m以下
などがあります。
一方、
- 練積み造擁壁
- 空積み造擁壁
- 補強したブロック積み構造など
については、透水マットの適用対象外としている基準があります。
したがって、「擁壁なら種類を問わず透水マットを使える」と考えてはいけません。
採用するときは、対象となる擁壁形式について使用が認められているか確認する必要があります。
高さ3mを超える擁壁では砕石を併用する場合がある
擁壁の高さによって、透水マットの施工方法が変わる場合があります。
「擁壁用透水マット技術マニュアル」を準用する技術基準では、擁壁高さが3mを超え5m以下の場合、透水マットに加えて、下部水抜き穴の位置へ砂利や砕石による透水層を設ける仕様が示されている例があります。
具体的には、
- 厚さ30cm以上
- 高さ50cm以上
- 擁壁全長にわたって施工
とする基準があります。
一方、建築研究所では、高さ3mを超え5m以下の宅地擁壁を対象として、砕石を使用せず透水マットのみを使用する工法について実大排水性能実験も行われています。
このため、実際の仕様については、採用する透水マットの仕様と所管行政庁の技術基準を確認して決定することが重要です。
透水マットは擁壁背面の全面に設置する
透水マットは、水が流れてくる一部分だけに設置すればよいわけではありません。
「擁壁用透水マット技術マニュアル」を準用する基準では、基本的に擁壁背面の全長・全面へ設置する方法が示されています。
施工例では、擁壁天端から30~50cm程度下がった位置から、最下部または止水コンクリート面まで透水マットを貼り付けます。
透水マットを途中で切ってしまうと、その位置より上から流れてきた水を十分に排水できない可能性があります。
また、控え壁式擁壁など、擁壁背面に突起がある場合は、控え壁の両側にも透水マットを施工する必要がある基準もあります。
ただし、具体的な貼付範囲や寸法は自治体や使用する仕様によって異なる場合があります。
擁壁下部には止水処理が必要になる
透水マットで集めた水は、適切に水抜き穴へ導かなければなりません。
擁壁下部から水がそのまま基礎地盤へ流れる構造では、基礎周辺へ水が浸透する可能性があります。
透水マットを使用する一般的な施工例では、擁壁下部に止水コンクリートを設けます。
止水コンクリートによって透水マット内を流れてきた水を受け、水抜き穴へ排出させる構造です。
透水マットを設計・施工するときは、
- 透水マット
- 水抜き穴
- 止水コンクリート
の位置関係を断面図で確認しましょう。
湧水がある地盤では透水マットだけに頼らない
擁壁背面に湧水がある場合は特に注意が必要です。
「擁壁用透水マット技術マニュアル」を準用する自治体基準では、
- 湧水のある地盤
- 凍結・凍上のおそれがある地盤
- 有機溶剤が流れるおそれがある地盤
- 廃棄物処分場内の地盤
などで透水マットの使用を制限している例があります。
透水マットは、通常の雨水や浸透水を排水するための材料です。
地山から大量の地下水が継続的に流入する場所では、透水マットだけでは排水能力が不足する可能性があります。
その場合は、
- 暗渠排水
- 基盤排水
- 追加の水抜き穴
- 砕石による排水層
など、別の排水対策を含めて検討する必要があります。
透水マットがあっても水圧を必ず無視できるとは限らない
擁壁の安定計算では、「透水マットと水抜き穴があるから水圧は考えなくてよい」と機械的に判断しないよう注意が必要です。
『盛土等防災マニュアル』では、切土部に設置する擁壁の土圧を求めるとき、切土面の位置や勾配だけでなく、湧水や地下水の状況などに応じて適切な土圧算定方法を検討することとされています。
つまり、排水設備が設置されていても、
- 地下水位が高い
- 地山から湧水がある
- 集水地形である
- 豪雨時に多量の浸透水が流入する
といった条件では、水の影響を別途検討する必要があります。
透水マットは水圧を無条件でゼロにする材料ではなく、水圧が発生しにくい状態を確保するための排水設備と考えましょう。
透水マットと吸出し防止材は役割が違う
透水マットと混同しやすい材料に「吸出し防止材」があります。
両者の役割は異なります。
透水マット
擁壁背面に広く設置し、浸透水を集めて水抜き穴まで導くための材料です。
吸出し防止材
主に水抜き穴の背面などへ設置し、背面土の細粒分が水と一緒に流出することを防ぐ材料です。
水抜き穴から土砂が流出すると、背面地盤に空洞が生じる原因になる可能性があります。
そのため、水抜き穴背面では排水機能を確保しながら土砂の流出を防ぐ必要があります。
透水マットと吸出し防止材は似ていますが、「背面全体の排水」と「土砂流出防止」という目的の違いがあります。
透水マット施工時の注意点
透水マットは設置すれば終わりではありません。
施工方法が悪ければ、十分な排水性能を確保できない可能性があります。
埋め戻しでずれないように固定する
透水マットは擁壁背面へ確実に固定します。
埋め戻しや締固め作業によってマットがずれると、排水経路が途切れる可能性があります。
固定方法は使用する透水マットの施工要領に従います。
基準によっては、コンクリートを損傷する可能性があるため、釘による固定を禁止している場合があります。
継目から土砂を入れない
透水マットの継目から土砂が入り込むと、排水性能が低下する可能性があります。
マット同士の接続部についても、製品ごとの施工要領に従って適切に施工します。
水抜き穴を閉塞させない
コンクリート打設や埋め戻しによって水抜き穴がふさがれると、透水マットで集めた水を排出できません。
施工時には、水抜き穴が計画位置にあり、排水経路が確保されていることを確認します。
マットを損傷させない
埋め戻し時に重機のバケットや砕石などが透水マットへ直接接触すると、破損する可能性があります。
透水マットを傷つけないように埋め戻しを行う必要があります。
擁壁の排水でよくある間違い
擁壁の透水マットを計画するときは、次のような考え方に注意してください。
透水マットがあれば水抜き穴はいらない
誤りです。
透水マットは水を集める材料であり、集めた水を擁壁外へ排出するために水抜き穴などが必要です。
水抜き穴があれば透水層はいらない
水抜き穴だけでは、背面の広い範囲から効率よく水を集められません。
水抜き穴周辺などへ透水層を設け、背面水を水抜き穴まで導く必要があります。
どんな擁壁にも透水マットを使える
擁壁形式や高さ、地盤条件によって適用条件があります。
自治体によって基準が異なる場合もあるため、使用前に確認が必要です。
透水マットを使えば水圧を考えなくてよい
湧水や地下水の影響が大きい場所では、透水マットだけで十分とは限りません。
設計条件に応じて排水計画や水圧の影響を検討する必要があります。
擁壁の透水マットを計画するときのチェックポイント
透水マットを計画するときは、次の項目を確認すると整理しやすくなります。
- 擁壁に適用される法令・条例を確認する
- 擁壁の種類と高さを確認する
- 透水マットを使用できる条件か確認する
- 地下水や湧水の状況を確認する
- 水抜き穴の位置・径・数量を確認する
- 透水マットの貼付範囲を確認する
- 必要に応じて砂利・砕石の透水層を併用する
- 止水コンクリートとの位置関係を確認する
- 吸出し防止対策を確認する
- 埋め戻し後も排水経路が確保される施工方法とする
特に重要なのは、透水マット単体ではなく、擁壁背面全体の排水計画として考えることです。
擁壁の透水マットに関するよくある疑問
擁壁の透水マットは何のために設置しますか?
擁壁背面に浸入した雨水や地下水などを集め、水抜き穴へ導くために設置します。
背面に水がたまることによる水圧の発生を防止・軽減することが主な目的です。
透水マットは裏込め砕石の代わりになりますか?
使用条件を満たす場合は、透水層として透水マットを使用できる場合があります。
ただし、擁壁の高さや形式、自治体の技術基準によって砕石との併用が必要になる場合があります。
擁壁の透水マットはどこまで貼りますか?
「擁壁用透水マット技術マニュアル」を準用する基準では、擁壁天端から30~50cm程度下がった位置から最下部または止水コンクリート面まで、擁壁背面の全長・全面へ施工する方法が示されています。
実際の施工では、使用する製品の施工要領と所管行政庁の基準を確認してください。
水抜き穴は何個必要ですか?
宅地造成及び特定盛土等規制法施行令第12条の対象となる擁壁では、壁面3m²以内ごとに少なくとも1個、内径7.5cm以上の水抜き穴を設けることが規定されています。
ただし、この数値をすべての擁壁へ一律に適用するわけではありません。
湧水があっても透水マットを使えますか?
湧水がある地盤では、透水マットの使用を制限している技術基準があります。
湧水量が多い場合は、暗渠排水など別の排水設備を検討する必要があります。
まとめ|擁壁の透水マットは水抜き穴とセットで考える
擁壁の透水マットは、擁壁背面に浸入した水を集め、水抜き穴へ導くための透水層として使用する排水材料です。
擁壁背面に水がたまると水圧が作用し、擁壁の安定性へ悪影響を与える可能性があります。
そのため、
- 透水マットや裏込め砕石で水を集める
- 水抜き穴まで水を導く
- 水抜き穴から擁壁前面へ排出する
という一連の排水経路を確保することが重要です。
透水マットは施工性に優れた材料ですが、すべての擁壁や地盤条件で使用できるわけではありません。
擁壁の形式、高さ、地下水や湧水の状況を確認し、適用される法令、自治体の技術基準、採用する透水マットの施工要領に従って計画・施工することが大切です。