【解説】主働土圧と受働土圧の違いをわかりやすく解説|受働土圧は土が耐えられる限界の力
「主働土圧と受働土圧の違いがわからない」
「受働土圧が主働土圧より大きいのに、擁壁の設計で無視するのは何故?」
土圧の計算式を覚えていても、具体的にイメージするのは難しいですよね。
とくに受働土圧は、実務の技術者でも理解が難しいと感じる項目だと思います。
受働土圧が分かりにくい理由は、受働土圧も「土が構造物を押す力」だと誤解されがちだからです。
そこでこの記事では、主働土圧・受働土圧・静止土圧の違いを、土くさびと構造物の動きから解説します。
この記事を読むことで、3種類の土圧の正体と、受働土圧を慎重に扱う理由を理解することができるようになります。
結論から申しますと、主働土圧は土くさびが構造物を押す力で、受働土圧は土が破壊せずに耐えられる限界の力です。
主働土圧と受働土圧の違いは「押す力」と「耐える限界の力」の違い
主働土圧と受働土圧の違いは、土が主体となって押すか、土が受け身で耐えるかにあります。
主働土圧とは、構造物が土から離れたときに、土くさびが滑り落ちようとして構造物を押す力のことです。
受働土圧とは、構造物が土を押し込んだときに、土が破壊せずに耐えられる限界の抵抗力のことです。
受働土圧は作用する荷重ではなく、構造物に押されたときだけ抵抗力として現れます。
また、静止土圧とは、左右を拘束されて動けない構造物に土が加える土圧のことです。
次の表では、3種類の土圧の違いを、内部摩擦角φ=30°の砂質土の例で整理しています。
| 土圧の種類 | 土圧の正体 | 構造物の動き | 代表的な使い方 |
|---|---|---|---|
| 主働土圧 | 土くさびが構造物を押す力 | 構造物が土から離れる | 擁壁の背面、土留め壁の背面 |
| 静止土圧 | 動けない構造物に加わる土の力 | 構造物が動かない | ボックスカルバート、U型擁壁、水路の側壁 |
| 受働土圧 | 土が耐えられる限界の抵抗力 | 構造物が土を押し込む | 土留め壁の根入れ部の前面 |
土圧の大小関係は、受働土圧>静止土圧>主働土圧の順になります。
ただし、受働土圧の値は、前面の土が発揮することができる抵抗力の上限を表しています。
構造物の動きと土圧の関係は、次の表のように整理することができます。
| 構造物の動き | 土の状態 | 壁に働く土圧 |
|---|---|---|
| 土から離れる | 背面の土くさびが滑り落ちようとする | 主働土圧(最小) |
| 動かない | 土が元の状態を保つ | 静止土圧(中間) |
| 土を押し込む | 前面の土くさびが押し上げられようとする | 受働土圧(最大) |
土圧は、静止土圧から構造物がわずかな変位を生じると主働土圧へ移行します。
一方で、土圧が受働土圧に達するまでには、主働土圧の場合よりはるかに大きな変位が必要です。
主働土圧は土くさびが構造物を押す力
主働土圧は構造物がわずかに離れるだけで生じる
主働土圧が生じる条件は、構造物が土からわずかに離れることです。
構造物が前へ動くと、背面の土は支えを失い、斜めのすべり面に沿って滑り落ちようとします。
すべり面の上に乗った三角形の土の塊のことを、土くさびと呼びます。
主働土圧の正体は、土くさびが滑り落ちようとして構造物にもたれかかる力です。
主働土圧は土くさびの角度を変えたときの最大値として求める
主働土圧は、すべり面の角度を変えたときに、土くさびが構造物を押す力の最大値として求めます。
壁面の摩擦を考えない単純な条件では、ランキン土圧とクーロン土圧の主働土圧は同じ式になります。
主働土圧の計算式と条件は、次のとおりです。
- 主働土圧係数:Ka=tan²(45°-φ/2)
- 主働土圧の合力:Pa=1/2×Ka×γ×H²(γ:土の単位体積重量、H:壁高)
- すべり面の角度:水平から45°+φ/2
- 合力の作用位置:壁の下端からH/3
道路擁壁や宅地擁壁の設計では、土くさびの角度を変えながら土圧の最大値を探す試行くさび法も使われています。
受働土圧は土が破壊せずに耐えられる限界の力
受働土圧は水平方向の極限支持力にあたる
受働土圧とは、構造物に押された土が、受働くさびを生じて破壊することなく耐えられる限界の抵抗力のことです。
構造物が受働土圧を超える力で土を押すと、前面の土はすべり面に沿って斜め上へ押し上げられて破壊します。
地盤の極限支持力が鉛直方向の限界であるのに対し、受働土圧は水平方向の極限支持力にあたります。
受働土圧を「力」ではなく「限界値」として捉えることが、受働土圧を理解する近道です。
受働土圧は、すべり面の角度を変えたときの抵抗力の最小値として求めます。
受働土圧は自分から構造物を押さない
受働土圧は、自分から構造物を押す力ではなく、主働土圧によって構造物が押されたときにだけ発揮される抵抗力です。
受働土圧の計算値は、前面の土が発揮することができる抵抗力の上限を示しています。
受働土圧の性質は、土の粘着力と似ています。
粘着力も、土がすべろうとしたときにだけ抵抗として働きますが、自分から土を動かすことはありません。
| 比較項目 | 粘着力 | 受働土圧 |
|---|---|---|
| 力の性質 | 土のせん断強さの一部 | 土の水平方向の抵抗の上限 |
| 発揮される条件 | 土がすべろうとしたとき | 構造物が土を押し込んだとき |
| 発揮される大きさ | 必要な分だけ(上限は土の強さ) | 必要な分だけ(上限は受働土圧) |
| 自分から作用するか | 作用しない | 作用しない |
受働土圧が主働土圧より大きい理由は受働くさびが大きいから
受働土圧が主働土圧より大きい理由は、受働くさびのほうがはるかに大きいからです。
受働土圧のすべり面は緩い角度のため、壁から遠くまで延びます。構造物が土を押し込むには、構造物は幅の広い受働くさびを斜め上へ押し上げなければなりません。
下表は壁高3mでΦ=30°、土の単位体積重量が18kN/㎥とした場合の土圧の比較です。
| 比較項目(φ=30°、γ=18kN/m³、H=3.0m) | 主働土圧 | 静止土圧 | 受働土圧 |
|---|---|---|---|
| 土圧係数 | Ka=0.333 | K0=0.5 | Kp=3.0 |
| すべり面の角度(水平から) | 60° | すべり面なし | 30° |
| 地表でのくさびの幅 | 約1.73m | ― | 約5.20m |
| 土圧の合力 | 27.0kN/m | 40.5kN/m | 243.0kN/m |
| 主働土圧に対する倍率 | 1.0倍 | 1.5倍 | 9.0倍 |
壁面摩擦を考えない場合、受働土圧係数は主働土圧係数の逆数になり、受働土圧は主働土圧の9倍になります。
また、受働くさびが大きいほど、受働くさび全体を破壊の状態にするには構造物の大きな変位が必要です。
受働土圧は主働土圧と釣り合う相手として使う
受働土圧は、基本的に主働土圧と釣り合う相手として設計に登場します。代表例は、土留め壁の根入れ部です。
土留め壁の背面側では、主働土圧と水圧が壁を掘削側へ押します。
一方で、根入れ部の前面側で壁の動きに抵抗するのは、掘削側の土の抵抗力です。掘削側の土の抵抗力の上限が、受働土圧です。
| 土留め壁の位置 | 働く土圧 | 土圧の役割 |
|---|---|---|
| 背面側(掘削しない側) | 主働土圧+水圧 | 壁を掘削側へ押す荷重 |
| 根入れ部の前面側(掘削した側) | 受働土圧(上限値) | 壁の動きに抵抗する反力 |
静止土圧は左右を拘束された構造物に生じる土圧
静止土圧は、ボックスカルバート、U型擁壁、水路のように、左右を拘束された構造物の設計に用います。
左右の側壁が頂版や底版でつながった構造物は、片側の土から離れる方向に動くことができません。
構造物が土から離れない場合、土くさびが滑り落ちるための変位が生じないため、背面の土は静止した状態のままです。
したがって、左右を拘束された構造物には、主働土圧より大きい静止土圧が作用します。
静止土圧係数K0は、Jaky(ヤーキー)の式でK0=1-sinφと表され、φ=30°ではK0=0.5です。
ボックスカルバートの設計では、通常の砂質土や粘性土に対してK0=0.5を用いることが一般的です。
また、U型擁壁の壁体に作用する常時の土圧にも、一般に静止土圧を用います。
技術者が主働土圧と受働土圧を設計で扱うときの注意点
擁壁の前面の受働土圧は原則として見込まない
擁壁の設計では、擁壁の前面の埋戻し土による受働土圧を、原則として滑動の抵抗力に見込みません。
理由は、以下のような理由で前面の土が将来も確実に残るとは限らないからです。
- 洪水や豪雨による洗掘で、前面の土が流されるおそれ
- 人為的な掘り返しで、前面の土が取り除かれるおそれ
- 凍結融解によって、前面の土が十分な抵抗を発揮しないおそれ
ただし例外として受働土圧を考慮することができる条件を定めている自治体もあります。
例外の条件は、十分な根入れ深さ、前面の地盤の十分な締固め、将来の掘削のおそれがないことの3つをすべて満たすことです。
主働土圧と受働土圧の違いのまとめ
以上。本記事では主働土圧・受働土圧・静止土圧の違いを解説しました。
本記事のまとめは以下のとおりです。
- 主働土圧とは、土くさびが構造物を押す力のこと
- 受働土圧とは、土が受働くさびを生じて破壊することなく耐えられる限界の抵抗力のことで、水平方向の極限支持力にあたる
- 受働土圧は、粘着力と同じく自分から作用しない抵抗力
- 受働土圧が主働土圧より大きい理由は、受働くさびが大きいから
- 受働土圧は、土留め壁の根入れ部のように、主働土圧と釣り合う相手として使う
- 静止土圧は、ボックスカルバート、U型擁壁、水路のように、左右を拘束された構造物に適用する
- 擁壁の前面の受働土圧は、洗掘や掘り返しのおそれがあるため、原則として見込まない
土圧を設定するときは、まず構造物が「土から離れるのか、動けないのか、土を押し込むのか」を確認しましょう。
そのうえで、背面側と前面側のどちらの土が押し、どちらの土が耐えるのかを図に描いてイメージしてみてください。
受働土圧を抵抗力として見込む場合は、準拠する基準で受働土圧の扱いを必ず確認しましょう。
参考にした基準・資料
- 公益社団法人 日本道路協会『道路土工-擁壁工指針(平成24年度版)』平成24年7月 Amazonで見る
- 社団法人 日本道路協会『道路土工 カルバート工指針(平成21年度版)』平成22年3月 Amazonで見る
- ぎょうせい『盛土等防災マニュアルの解説〔Ⅰ〕』令和5年11月 第二次改訂版 Amazonで見る
- 日本建築学会『山留め設計指針』2017年 第3次改定 Amazonで見る
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