擁壁の鉄筋かぶりとは
鉄筋のかぶりとは、鉄筋の表面とコンクリート表面との最小距離です。
「盛土等防災マニュアルの解説Ⅰ」でも、鉄筋のかぶりは鉄筋表面とコンクリート表面との最小距離と定義されています。
つまり、次の距離がかぶりです。
コンクリート表面 ── かぶり ── 鉄筋表面
鉄筋の中心までの距離ではありません。
擁壁では、たて壁や底版の内部に主鉄筋や配力鉄筋を配置します。その鉄筋をコンクリート表面ぎりぎりに配置するのではなく、一定量のコンクリートで覆うように配置します。
この鉄筋を覆っているコンクリートの厚さが「かぶり」です。
擁壁で鉄筋のかぶりを確保する目的
擁壁で鉄筋のかぶりを確保する大きな目的は、鉄筋を外部環境から保護して、鉄筋コンクリート部材の耐久性を確保することです。
擁壁は屋外に設置される構造物であり、たて壁の背面は土に接し、底版は地盤中に設置されます。
さらに、設置場所によっては海から飛来する塩分などの影響も受けます。
「道路土工-擁壁工指針」では、塩害の影響が懸念される地域について、鉄筋位置における塩化物イオン濃度が限界濃度を超えないよう検討する考え方が示されています。
その対策のひとつが、十分な鉄筋のかぶりを確保することです。
かぶりによって鉄筋までの距離を確保する
鉄筋をコンクリート表面から離せば、外部から鉄筋までの距離が長くなります。
たとえば、塩分がコンクリート表面から内部へ浸透する場合、かぶりが十分にあれば鉄筋へ到達するまでの距離を確保できます。
反対に、かぶりが不足していると鉄筋がコンクリート表面に近くなり、外部環境の影響を受けやすくなります。
つまり、かぶりは単なる配筋上の余白ではありません。
鉄筋を保護するために必要なコンクリートの厚さと考えると、かぶりの役割を理解しやすくなります。
かぶり不足は擁壁の耐久性に影響する
かぶりが不足すると、鉄筋腐食に対する耐久性が低下します。
鉄筋コンクリート擁壁は、コンクリートと鉄筋がそれぞれ必要な性能を発揮することで構造物として機能します。
したがって、鉄筋を長期間健全に保つことは重要です。
設計図面で必要なかぶりを設定するだけではなく、施工時にも実際のかぶりが確保されているか確認する必要があります。
盛土等防災マニュアル関係の施工時の確認事項でも、現場打ち擁壁について、配筋間隔、鉄筋の種類、鉄筋径とともに「かぶり厚さ」を計画内容と照合することが示されています。
純かぶりと芯かぶりの違い
擁壁の設計では、「純かぶり」と「芯かぶり」という言葉が使われます。
両者は似ていますが、測っている位置が違います。
| 種類 | 距離 |
|---|---|
| 純かぶり | コンクリート表面から鉄筋表面まで |
| 芯かぶり | コンクリート表面から鉄筋中心まで |
基準書で「鉄筋のかぶり」として規定されているのは、鉄筋表面までの距離です。
実務では、この距離を「純かぶり」と呼ぶことがあります。
一方、「芯かぶり」は鉄筋中心までの距離を表す実務上の呼び方です。
純かぶりとは
純かぶりは、コンクリート表面から鉄筋表面までの距離です。
たとえば、コンクリート表面からD16鉄筋の表面まで40mm確保している場合、純かぶりは40mmです。
基準で、
「かぶり40mm以上」
と規定されている場合、鉄筋中心まで40mmという意味ではありません。
鉄筋表面まで40mm以上のコンクリートを確保するという意味です。
芯かぶりとは
芯かぶりは、コンクリート表面から鉄筋の中心までの距離です。
対象となる鉄筋が最も外側に配置されている場合は、次のように求められます。
芯かぶり = 純かぶり + 鉄筋径÷2
たとえば、純かぶり40mmでD16を配置する場合を考えます。
D16の公称直径を約16mmとして概算すると、
40 + 16÷2 = 48mm
となります。
純かぶりは40mmですが、鉄筋中心までの芯かぶりは約48mmです。
純かぶりと芯かぶりは同じ鉄筋配置を異なる位置まで測った寸法と考えると分かりやすいでしょう。
主鉄筋の外側に配力鉄筋がある場合は注意する
擁壁では、主鉄筋よりもコンクリート表面側に配力鉄筋を配置する場合があります。
このとき、主鉄筋の芯かぶりは、
純かぶり + 主鉄筋径÷2
では求められません。
たとえば、コンクリート表面側から、
コンクリート表面 → 配力鉄筋 → 主鉄筋
という順番で配置されているとします。
この場合、純かぶりは最も外側にある配力鉄筋の表面までの距離です。
主鉄筋中心までの距離は、概ね次のようになります。
主鉄筋の芯かぶり = 純かぶり + 配力鉄筋径 + 主鉄筋径÷2
純かぶり40mm、配力鉄筋D13、主鉄筋D16として概算すると、
40 + 13 + 16÷2 = 61mm
となります。
主鉄筋の芯かぶりは約61mmです。
擁壁の構造計算では、この違いが重要になります。
擁壁の構造計算では芯かぶりが重要
基準で確認するのは純かぶりですが、曲げに対する構造計算では主鉄筋の中心位置が重要です。
鉄筋コンクリート部材の断面計算では、一般にコンクリートの圧縮側から引張側主鉄筋の中心までの「有効高」を使います。
部材厚を h、引張側主鉄筋の芯かぶりを a とすると、有効高 d は、
d = h - a
となります。
たとえば、部材厚300mm、主鉄筋の芯かぶり60mmなら、
300 - 60 = 240mm
となり、有効高は240mmです。
ここで純かぶり40mmをそのまま使って、
300 - 40 = 260mm
とすると、実際より主鉄筋を外側に配置した断面として計算してしまいます。
つまり、
- 純かぶり:必要なコンクリート厚さを確認する寸法
- 芯かぶり:構造計算で主鉄筋位置を表す寸法
という使い分けが重要です。
擁壁のかぶり厚さは部位によって異なる
かぶりの目的を理解すると、部位によって必要なかぶり厚さが異なることも理解しやすくなります。
「盛土等防災マニュアルの解説Ⅰ」の表Ⅷ・3-9では、鉄筋のかぶり厚さが部位ごとに整理されています。
現場打ちの場合は、主に次の値です。
| 部位 | かぶり厚さ |
|---|---|
| 耐力壁以外の壁・床 | 2cm |
| 耐力壁・柱・はり | 3cm |
| 土に接する壁・柱・床・はりなど | 4cm |
| 土中にある基礎 | 6cm |
同解説では、現場打ちの鉄筋コンクリート造等擁壁について、鉛直壁では4cm以上、底版では6cm以上としています。
擁壁だから一律に「かぶり○mm」と決まるわけではありません。
現場打ちかプレキャストか、たて壁か底版かなどによって必要なかぶりは異なります。
道路擁壁については、「道路土工-擁壁工指針」など、対象となる擁壁の適用基準を確認して決定します。
かぶりは大きいほどよいわけではない
鉄筋を保護する目的だけを考えると、
「かぶりは大きいほど安全なのでは?」
と思うかもしれません。
しかし、同じ部材厚でかぶりを大きくすると、主鉄筋が断面の内側へ移動します。
その結果、曲げに抵抗するための有効高が小さくなります。
つまり、かぶりには、
必要量を確実に確保することが重要であり、必要以上に大きくすればよいわけではありません。
設計では、適用基準による必要かぶりを満足させたうえで、実際の鉄筋配置から芯かぶりと有効高を設定します。
計算ツールでは「かぶり」の意味を確認する
擁壁の構造計算ツールを使用するときは、入力項目の「かぶり」が何を意味しているのか確認してください。
ツールによって入力する値は、
- 純かぶり
- 主鉄筋の芯かぶり
- 有効高
など異なる場合があります。
特に「かぶり」という名称だけでは、純かぶりなのか芯かぶりなのか判断できないケースがあります。
純かぶり40mmの擁壁でも、主鉄筋の芯かぶりが40mmになるとは限りません。
配力鉄筋が主鉄筋の外側にあれば、その鉄筋径も主鉄筋位置に影響します。
計算結果を確認するときは、入力したかぶりから主鉄筋が断面のどこに配置されている設定になっているのかまで確認しましょう。
擁壁のかぶりは設計だけでなく施工時にも確認する
必要なかぶりを図面に記載しても、実際の施工で確保されなければ意味がありません。
現場打ち擁壁では、コンクリートを打設すると鉄筋が見えなくなります。
そのため、打設前の配筋確認が重要です。
盛土等防災マニュアル関係の施工管理でも、現場打ち擁壁について、
- 配筋間隔
- 鉄筋の種類
- 鉄筋径
- かぶり厚さ
などを計画内容と照合することが確認事項とされています。
設計時に必要な純かぶりを設定し、施工時にスペーサーなどを用いてその寸法を確保するところまでが重要です。
まとめ
擁壁の鉄筋かぶりは、鉄筋表面とコンクリート表面との最小距離です。
かぶりを確保する大きな目的は、鉄筋を外部環境から保護し、鉄筋コンクリート擁壁の耐久性を確保することにあります。
また、実務では純かぶりと芯かぶりを区別することが重要です。
- 純かぶり:コンクリート表面から鉄筋表面まで
- 芯かぶり:コンクリート表面から鉄筋中心まで
- 基準で規定される「かぶり」は純かぶり
- 構造計算では主鉄筋の芯位置から有効高を求める
- 配力鉄筋が外側にある場合は、その鉄筋径も考慮する
- 必要なかぶり厚さは部位や適用基準によって異なる
- 設計だけでなく施工時にもかぶりを確認する
「かぶり40mm」と数値だけを覚えるのではなく、なぜそのコンクリート厚さが必要なのか、構造計算ではどの位置までを使うのかを理解しておくことが大切です。