結論:断面算定は慣用法か弾塑性法、周辺への影響は有限要素法

手法は精度で選ぶものではありません。何を決めるための計算かで選びます。検討したいことと手法の対応は次のとおりです。

検討したいことと、選ぶ手法
検討したいこと選ぶ手法
山留め壁・支保工の断面算定慣用法(浅い掘削)/弾塑性法(段数が増える場合)
根入れ長さの決定慣用法(モーメントの釣合い)
掘削段階ごとの壁の変形弾塑性法/有限要素法
背面地盤の沈下・近接構造物への影響有限要素法
偏土圧・多段山留め・地盤改良を伴う特殊な条件有限要素法

断面算定に有限要素法を使わないのは、地盤の構成則しだいで壁の断面力が小さく出るためです。逆に、背面地盤の沈下や近接構造物への影響は、慣用法では算定の対象になりません。理由は記事の後半で順に説明します。

目次へ戻る

3つの手法の違いは「地盤をどう表すか」にある

3つの手法を分けているのは、地盤の扱い方です。山留め壁に生じる応力・変形の算定法は、山留め設計指針 6.4.1 に4つ挙げられています。梁-ばねモデル、自立山留めの梁-ばねモデル、単純梁モデル、有限要素法の4つです。実務でよく使う3つに絞ると、違いは地盤の表し方に集約されます。

慣用法は側圧を外から与え、地盤はモデルに現れない

壁を、支保工の位置と根切り底以深の仮想支点で支えられた梁とみなします。地盤そのものはモデルに出てきません。代わりに、あらかじめ決めた側圧(ランキン・レザール式や側圧係数法)を外力として壁に載せます。

入力は土の強度定数(内部摩擦角φ・粘着力c)が中心です。土圧係数を通じて側圧が決まり、決まった側圧をすべて壁が受け持ちます。地盤が壁を支える働きは、根入れ部の仮想支点という形でしか入りません。

弾塑性法は根入れ部の地盤をばねに置き換える

壁を弾性ばりとし、根入れ部の地盤を水平方向のばね(水平地盤反力係数 kh)で表します。ばねの抵抗には受働土圧という上限があり、深く掘るほど根入れ部の地盤が降伏していく過程を追うことができます。

掘削段階ごとに解いて、前の段階の変位を引き継げる点も慣用法と違います。入力には kh が加わります。地盤の強度だけでなく、変形のしやすさが結果に効いてくる手法です。

有限要素法は地盤そのものを要素に分割する

地盤を連続体として要素に分割します。壁は梁要素、切梁はばね要素や棒要素として、地盤の中に置きます。側圧を外から与えません。掘削で解放された力が地盤の中を伝わった結果として、壁に作用する力が決まります。

入力は変形定数(変形係数E・ポアソン比ν)が中心になります。強度定数は、弾塑性の構成則(修正カムクレイなど)を選んだときに効いてきます。

土留めと山留めは同じものを指します。呼び方が分野で違うだけで、土木では土留め、建築では山留めと書くのが通例です。基準書も、日本道路協会は「仮設構造物工指針」で土留め工、日本建築学会は「山留め設計指針」と書き分けています。

目次へ戻る

山留め設計指針は支保工の段数と根切り深さで手法を分けている

指針は、4つの算定法それぞれについて適用の可否を表で示しています(6.4.1 表6.4.1)。目安は支保工の段数と根切り深さです。段数が増え、深くなるほど、単純梁モデルの適用範囲から外れていきます。自立から1段程度の浅い掘削では単純梁モデルが適用でき、段数が増えると梁-ばねモデルが標準になります。

有限要素法は 6.4.5 で扱われています。一般的な山留めに加えて、特殊な条件下の山留めや周辺への影響を検討する場合に用いる手法、という位置づけです。国内では山留め架構そのものの設計に使われることは比較的少ない、ともされています。

有限要素法は慣用法の上位互換ではありません。部材の断面算定は慣用法や梁-ばねモデルで行い、有限要素法は周辺地盤がどれだけ動くかを見るために使う。指針はその住み分けを前提にしています。

目次へ戻る

同じ断面を解くと曲げモーメントは17倍違う

掘削深さ5m、根入れ6m、切梁1段(GL-1.5m)、鋼矢板III型、上載荷重10kN/m2、地下水位GL-2m。同じ条件を、土留(山留め工)の設計(慣用法)と土留(山留め工)の設計(有限要素法)にそれぞれの標準的な入力で与えて解きました。

同じ断面・同じ掘削条件に対する最終掘削段階の結果
慣用法有限要素法(線形弾性)有限要素法(修正カムクレイ)
最大曲げモーメント182.3 kN・m/m10.5 kN・m/m64.0 kN・m/m
切梁の反力(壁1mあたり)108.0 kN/m30.6 kN/m87.5 kN/m
山留め壁の最大水平変位算定しない2.9 mm34.4 mm
背面地表面の沈下算定しない1.7 mm31.9 mm

曲げモーメントは、慣用法と線形弾性の有限要素法で17倍開きます。地盤を修正カムクレイ(弾塑性)にすると差は3倍程度まで縮みますが、一致はしません。土質定数の対応が手法ごとに違うため(慣用法はφ、有限要素法はEとK0)、条件を完全にそろえること自体ができません。差し引いて見る必要があります。

慣用法(単純梁モデル)は、支点間の応力を求める手法です。壁の変形量は直接は出てきません。自立式の段階だけは簡易な梁-ばねモデルで解くため、変位が出ます。切梁を設置した以降の段階では、指針が別に示す変位の算定法(6.4.4)によることになります。

目次へ戻る

結果が食い違う理由は3つある

1. 慣用法は側圧を先に決め、有限要素法は解いた結果として決まる

慣用法が壁に載せるのは、あらかじめ決めた側圧の全部です。安全側に決めた側圧が、そのまま曲げモーメントになります。一方の有限要素法では、掘削で解放された力が地盤の中で再配分されます。壁が負担するのは、自分の剛性に応じた分だけです。周りの地盤が硬いほど、壁の取り分は小さくなります。

2. 線形弾性では主働状態が発達せず、壁の負担が小さく出る

慣用法の側圧は、背面が主働状態、掘削側が受働状態になっている前提の値です。地盤がすべり面をつくって降伏した状態を仮定しています。ところが、有限要素法で地盤を線形弾性にすると、地盤はいくら変形してもせん断破壊しません。主働状態が発達せず、壁に作用する力が小さいまま止まります。

上の表で線形弾性だけが極端に小さいのは、主な理由がここにあります。

修正カムクレイのような弾塑性の構成則にすると地盤が降伏しはじめ、慣用法のオーダーに近づきます。有限要素法で山留めを解くなら、地盤の構成則の選択が結果を左右します。

3. 壁と地盤の節点を共有すると、変形が小さく出る

有限要素法では、壁と地盤の間にジョイント要素(すべりと離間を許す要素)を入れるかどうかで結果が変わります。入れずに節点を共有すると、壁は地盤に接着された状態です。変形が小さめに出ます。壁が周辺地盤と一体で鉛直方向にも動くため、根切り底面の隆起に引かれて壁が浮き上がることもあります。

指針 6.4.5 も、解析を現実に近づける工夫を挙げています。地盤に引張応力を持たせない設定や、壁と地盤の間にばね要素・ジョイント要素を入れる方法です。

目次へ戻る

有限要素法の結果が合わない原因は、手法ではなく入力とモデル化

有限要素法の結果が現場と合わないとき、原因は手法ではなく入力とモデル化にあることがほとんどです。次の5点を先に確認します。

  • 変形係数Eは、載荷時ではなく除荷・再載荷時の値を使う。掘削は地盤の除荷が主体で、除荷時のEは載荷時の数倍になる。載荷時の値を入れると変形が過大に出る。
  • 解析領域を十分に広く取る。背面側の幅や解析深さを変えて結果が動かなくなるところまで広げる。境界の近くで変位が残っているうちは、境界条件が結果に効いている。
  • 要素の大きさを確かめる。山留め壁や根切り底の近傍は応力の変化が大きいので、近傍だけ細かくする。
  • 地盤の構成則を意識して選ぶ。線形弾性は掘削による除荷の範囲では扱いやすい一方、壁の断面力を小さく評価する。
  • 結果を慣用法や梁-ばねモデルと突き合わせる。数値が一致することは期待できないが、桁が違う場合は入力かモデル化のどちらかを疑う。

目次へ戻る

まとめ:手法は精度順ではなく、見たいものの違い

3つの手法は、精度の順に並んでいるのではありません。見たいものが違います。

  • 慣用法 … 安全側に決めた側圧から部材を決める
  • 弾塑性法 … 掘削段階ごとの壁の挙動を追う
  • 有限要素法 … 地盤を含めた全体の変形を見る

結果が食い違うのは当然で、どれか一つが正しいわけではありません。設計で使うときは、何を決めるための計算なのかを先に決めてから手法を選びます。指針 6.4.5 も、有限要素法の結果を設計に用いる場合には、同じ条件を梁-ばねモデルでも解いて突き合わせることを求めています。

有限要素法だけで設計を決めない、という姿勢が前提です。

自分の条件で差を確かめるなら、まず土留(山留め工)の設計(慣用法)で断面と根入れ長を決めます。計算過程は帳票にまとめることができます。そのうえで土留(山留め工)の設計(有限要素法)にかけると、掘削段階ごとの変位と応力を図で確認できます。

目次へ戻る